◆カワイ株発見の軌跡(河合康雄氏の自伝より)


腸内細菌に注目した理由

腸内細菌は人と共に500万年も共存関係にありました。

つまり人間の身体の中にあるものは少なくとも人間にとって安全であり、適合性あるだろうと考えたからです。

500種・100兆個もの腸内細菌はいったい人間にとってどんな意味があるのだろう。

この素朴な疑問が私の研究の第一歩です。

コレステロールを下げる腸内細菌の絞り込み

動脈硬化の原因はコレステロールと中性脂肪です。

動脈硬化は全く見えないで進んでいきます。サイレント病だから恐いのです。

私はコレステロールを下げる菌を発見できれば成人病の三分の二は解決に向かうと考えました。

この時すでに腸内細菌がコレステロールを下げるというネズミに実験がヨーロッパで発表されていました。

ネズミを使った「老化と腸内細菌の研究」でコレステロールは老化と共に増加しますが腸内細菌の住んでいるネズミは腸内細菌が住んでいないネズミに比較してコレステロールの増加は著しく少ないのです。

つまり腸内細菌の住みついているネズミは老化してもコレステロールがあまり増加しないのです。

私の予想通り腸内細菌は生体に大きな役割を果たしていたのです。

腸内細菌がコレステロールを低下させるさせることに気付けばどの菌が「本当の菌」かを探せばいいのです。

しかし人間の腸内細菌は300種・全菌数は100兆個もあり「本当の菌」を探すのは至難の技だったのです。

ヒントは「微生物と免疫」という英文誌に発表してあった二つの発見でした。

(1)人間から採取した乳酸球菌エンテロコッカスが十二指腸粘膜の不必要な酵素アルカリフォスファターゼ(癌や肝機能障害で増加する)の活性を著しく抑制すると言うことです。

(2)人間から採取したエンテロコッカス(乳酸球菌)、ビフィダス(乳酸桿菌)、ラクトバチラス(乳酸桿菌)を混合で与え胃・腸管・各部位への定着性を調べるとエンテロコッカスが他の乳酸菌に比べ圧倒的良いと言うことです。

この二つの世界で初めての研究結果から乳酸球菌エンテロコッカスの研究に的を絞りました。

乳酸球菌エンテロコッカスの探求

エンテロコッカス乳酸球菌に的を絞りヤクルト中央研究所の責任者として研究グループの総力を挙げて邁進を始めました。

私の研究グループの多数の研究者が私の情熱とアイデアについてきてくれました。

この頃、胃腸管から乳酸球菌エンテロコッカスを取り出すのは困難な時代で内視鏡や胃カメラの開発が未熟でした。

私は糞便を材料にして乳酸球菌エンテロコッカスを探しコレステロールを低下させる菌を来る日も来る日も探し続けました。

糞便の三分の二は腸内細菌だからです。

ネズミに動脈硬化を起させて、このネズミに毎日毎日新しく培養した乳酸球菌をエンテロコッカスを投与しました。

コレステロールを少しくらい低下させる菌は半年位で見つかりました。

しかし少し位いコレステロールを低下させる菌では人間の動脈硬化には治療効果はありません。

いつの間にかテストしたエンテロコッカスの数は優に500株を超えていました。

一つのエンテロコッカスを分離採取しネズミへの投与は最低でも2週間、結果が出るのは1ケ月掛かります。

土曜日曜なし、毎日家に帰るのは真夜中と言う状態が連続でした。

テストしたエンテロコッカスは優に1000株を超えていました。

乳酸球菌カワイ株の発見

そして1400株を超えたところで一大転機がきました。

ついに発見したのです。

血中のコレステロールだけでなく中性脂肪も著しく低下させる乳酸球菌エンテロコッカスを発見したのです。

この乳酸球菌はエンテロコッカス・フェカリス菌に属することを確認し国際腸内細菌学会でエンテロコッカス・フェカリス・カワイ株と名付けられました。

このカワイ株はコレステロールを44%、中性脂肪を73%低下させることがわかったのです。

動脈硬化の研究はネズミだけでは不十分でウサギ、そして人々への投与での証明が必要です。そして臨床実験で患者のコレステロールを最大57.2%、中性脂肪46%低下させることが証明されたのです。

この研究発表は読売新聞一面トップ、他に朝日新聞、毎日新聞を始めとして日本中の新聞に取り上げられ世界でもメディカルトリビューン紙でも報じられ世界に反響を及ぼしました。

もう一つのカワイ株の特徴は生きた菌よりも熱水処理した死んだ菌の方がより強い硬化があることです。

今まで乳酸菌は生菌が良いと世間では言っていましたがカワイ株は死菌の方がずっと動脈硬化に効果があることが分かったのです。

このことは生菌でないと有効でないと言う妄想を根本から覆した世界で初めての画期的発見でした。

研究を始めてから5年半の歳月を掛け15000株を検証しましたがカワイ株に勝る菌体は見つかりませんでした。